序章 A.D.2000
ツー、ツー、ツー…………
「おかしいな…………」
男は首を傾げると、受話器を置いた。
「あなた、どうしたの?」
小さな赤ん坊を抱いた女が、電話機を見つめて佇む男に問い掛ける。
「いや、今年は田舎のおふくろから、年賀状が来なかっただろう?だから電話してみたんだけど、ここしばらく、ずっと話し中なんだ」
「何かあったのかしら」
女の心配そうな瞳に、男は軽く首を振ると、
「まあ、山奥の田舎だからな。おそらく雪のせいで電線が故障してるんじゃないかな。年賀状も、もしかしたらそのせいかもしれないし」
と、女と、そしてその腕の中から自分を見上げてくる赤ん坊に笑いかけた。
「とんでもない山奥だから、お前がもっと大きくなったら、おばあちゃんに会いに行こうな」
男の言葉に反応したのか、赤ん坊が笑い声をあげた。
O.S.183
「ちょっと待てーっ」
白い空間に雄叫びが響く。
「ねえ、マジ? マジ?」
「ヒトに聞くな!」
「俺一人でどうしろと……う、うわっ」
互いの声が、徐々に遠くなる。
「やることだけは、やっておけよ!」
「見捨てないでーっ」
とろり。
実際に触れているわけではない。
しかし、そうとしか言い表せないような感覚の中、次第に相手の存在が消えていく。
「うええーんっ」
「……泣くか? 泣くのか、いい歳した男が……」
ため息の中、踵を返す。
だがこの後の面倒を考えると、また別の意味でため息がついて出る。
「厄介なことになった……」
ため息の嵐。
しかしそれを止めるものは、取り敢えず今、ここにはいなかった。